この記事はネタバレを含みます。
引用元:新潮社 公式サイト 「噂」 著・荻原浩 より
あらすじ
「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」。香水の新ブランドを売り出すため、渋谷でモニターの女子高生がスカウトされた。口コミを利用し、噂を広めるのが狙いだった。販売戦略どおり、噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された。衝撃の結末を迎えるサイコ・サスペンス。
引用元:新潮社 公式サイト 「噂」 著・荻原浩 より
新しいブランドの香水”ミリエル”を売り出すために、広告代理店「東京エージェンシー」に務める西崎・加藤・三浦は「COMSITE(コムサイト)」という企画会社社長の杖村にWOM(口コミ)での販売戦略を提案され、見事に”ミリエル”の香水は大ヒットしました。
しかし、販売戦略のために流した”レインマン”の都市伝説話が本当に起きてしまいます。
”レインマン”は「東京エージェンシー」と「コムサイト」が共同で考案した作り話でした。
警視庁目黒署刑事課の小暮と本庁捜査一課警部補の名島のコンビが”レインマン”の正体を追います。
以下ネタバレになります。
レインマンの正体
レインマンの正体は西崎でした。
西崎は、元々女性の足が好きなフェティシズムがあったのをシューズデザイナーの仕事で女物の靴に触れていることでその欲求を抑えていました。しかし車の事故で色覚を失いシューズデザイナーの仕事を解雇されてしまいます。
欲求を抑えていた重しが無い状況でサキと出会い、サキに薬を飲まされ財布を盗まれそうになった際に脅そうと過って手にかけてしまいます。
その後サキの片足を切り落とし、自分の溜まっていた欲求を満たします。
欲求が満たされる喜びを知ってしまい歯止めが効かなくなり連続的に犯行に及んでいました。
妄想と現実
西崎はサキに飲まされたクスリで妄想・幻聴を引き起こしていたと思われます。
西崎はサキにお酒に混ぜたクスリを飲まされていました。
サキはグンナイ・ガールだったと思われます。
サキに薬をのまされた後もサキが所持していた幻覚作用のある睡眠導入剤ハルシオンを捕まるまでの間服用していたためではないかと考えられます。
最初の発見された被害者・高原美幸の前にサキは西崎の手によって亡くなっていました。
すでに存在していないはずのサキと、自宅で会話する場面があります。
これはサキの足と西崎が「会話」していたのだと考えられます。
そして、サキの幻聴で西崎は命を落としてしまいます。
作中ではすでにサキがいないことを思わせる描写がいくつかありました。
作中での西崎の妄想は現実ではこのようだったと考えられます。
・最近、サキとうまくいっていない。
→新しい足が手に入ってサキにかまってあげられない。
・冷蔵庫から妙な匂いがした。サキが中のものを腐らせてしまったのだ。
→サキの足の腐敗が進み冷蔵庫の中のものを腐らせた。
・サキが唐突にいなくなった。妙な同棲生活ももう終わりだ。
→処分した。
妄想が見えていても西崎は自分の犯した罪は認識していました。
事件後にコムサイトの訪ねた際に杖村に事件について聞いたら責任はまるでないように突っぱねられます。
杖村の物言いと顔を見ているうちに西崎は、自分の犯行を妄想だったんじゃないかと現実逃避するような心情が書かれていました。
”あれは何もかも自分の妄想で、実際は自分の知らない世界の出来事であるように、平凡そのもだったはずの自分の日常とはまったく関係のない事件であったように思えてきた”
引用元:「噂」 著・荻原浩 より
高原美幸のニュースのことをサキ(足)に聞いた際に「なにそれ」と返答された西崎は”知ってるわけ無いか””彼女には関係ない、もう関係ないはずだ”とあります。
この世にいないサキには女子高生が狙われる事件の話なんてもう関係ない話でしょうから。
足との「会話」
西崎がわざと人目に付く場所に遺棄していたのには理由がありました。
被害者のことをもっと知り、足との会話を楽しむためだったのです。
サキについては”最初の子は、あいてのことをあまり知らなさすぎて、うまくいかなかったからろくに「会話」もできなかった”とあります。
「噂」23 でのサキの携帯に送られた嫌がらせのチェーンメールを西崎が見ていた描写がありました。
サキの携帯のみを所持していたのにはサキの事をもっと知りたかったという理由もあったのではないでしょうか。
生前に少し思いを寄せていたためもあるかもしれません、小暮に結婚を考えている付き合っている相手とはサキのことだと思われます。
不可解な行動
わざわざ小暮に接触し、まるで警察の前に身をさらすことを望んでいた理由はなんだったのか。
接触したのは麻生を犯人に仕立て上げるためだったのと、それ以外にもあったのではないかと小暮は不審に思っていました。
おそらくですが、西崎は自分の犯行に陶酔し、興奮していたためだと考えられます。
どこまで小暮達が事件について知っているのか知りたかったのもあると思います。
そして、被害者2人の共通点であるアルバイトは問題視していない発言を聞き、麻生の話を持ち出しました。
探偵気取りの発言をしたのも、自分に容疑が向けられることはないと確信し自分の犯行に陶酔していたためだと考えられます。
衝撃のラスト一行
「きもさぶ」
衝撃のラスト一行でしたね。
菜摘たちが杖村を手にかけた犯人でした。
しかし、”カタキはちゃんとうったんだ”とあるので被害者の仲の良い友人達で犯行に及んだのは間違いありません。
青田久美がレインマンの標的にされた際、菜摘は小暮に「悲しいよりも腹が立ってしょうがない」とこぼしています。
そして”同じふうにしてやった。同じもので、同じように切って…”と誰かが言っています。
犯行に使われた凶器を知っていて、足がどこから切られているのかも知っていた事が分かります。
そして杖村の足の処理をピモピモに任せようとしていることから、ピモピモも犯行に関与していたことが分かります。
杖村が最後”あなた、いったいー”といった人物はモニター会で一度見たピモピモだったのではないかと考えられます。
ある種の人間
麻生とサキをタンツボにしていたのは菜摘達のようです。
麻生をの携帯をタンツボにしたことを久しぶりに楽しかったと言った後に”ダッセェ服着た田舎もんのくせに、渋谷ででかいツラしてた、あの髪の長い女以来だよ”と誰かが言いました。
この女とはサキを指していると思われます。
サキに送られてきた嫌がらせのチェーンメールには”ファッションセンス最低!”、”流行ってねぇよ、そんな髪型。切れよ。”、”田舎に帰れ”とあり一致しています。
サキの生前の容姿は描写がないので分かりませんが、実家は地方にあります。
西崎はこれらを見て自分一人が異常ではないことを確認していました。
小暮のいうある種の人間同士だから安心したのかもしれません。
小暮と名島がラストに言っている”乗り越えちゃいけない壁を飛び越えてしまうある種の人間、ある種の状況”の中に菜摘達は入ってしまったのでしょう。
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